20世紀アルゼンチンの盲目の詩人、作家ホルへ・ルイス・ボルヘスによる講義集です。6章から構成され、最後に編集者ミハイレスクの解説が付いています(訳者のあとがきもあります)。
先日岩波文庫新刊の棚をうろうろして偶然出会い、<詩>という言葉に惹かれて購入しました。ボルヘスは現代ラテンアメリカの高名な文学者なので私も『伝奇集』くらいは持っていたのですが、購入以来数年間積ん読状態のままで、結局そちらより本書を先に読んでしまいました。
まず本書においては、講演ということで文章が語り口調であるためか、予想を遥かに越えたその読みやすさに驚きました。ボルヘスは難解な作家であるというイメージを持っていましたし、実際小説作品などは理解しにくいのでしょうが、本書はとにかく語り口が素直で、専門用語なども全く使われないためさくさくと読めてしまいます。講演から立ち昇るボルヘスの人柄が非常に気さくで気取りがなく、親しみやす過ぎると言っていい位であったのにも驚きました。
さて本書はボルヘスが<詩>という芸術の秘密を我々に語ってくれる講演集です。ボルヘスはダンテやキーツ、ホメロス、また作品では『千一夜物語』が好きなようで、今回私が併読したボルヘスのもう一つの講演録『七つの夜』にも彼等の名前や作品が出てきました。その他にも非常に多くの詩人や作家、時には画家の名前が引用されますが、私は知っている人が半分、知らない人が半分位でした。英国の詩人・作家が比較的多く、主だった名を挙げればシェイクスピアやキプリング、ジョイス、ハズリット、スティーヴンソン、スコット、カーライル、ロセッティ、コールリッジ、ポープ、ブラウニング夫妻、ワーズワース、テニスン、ミルトン、チョ−サー、ジョン・ダン、作品ではディケンズの『ピクウィック・クラブ』やドイルの『ホームズ』等も。ドイツからはゲーテやショーペンハウアー、カントやニーチェ、ゲオルゲ。アメリカもメルヴィル、トウェイン、エマソン、ホイットマン、ロングフェローなどが論じられ、無論ボルヘスのホームグラウンドであるラテンアメリカの大詩人ダリオや劇作家カルデロン、セルバンテスの傑作『ドン・キホーテ』、アルゼンチンガウチョの歌『マルティン・フィエロ』等も引用されます。アジアからは老子、イスラム圏からはハーフィズら。要するにボルヘスの読んだ作品と知識は浩瀚にして該博ということです。こういう半端でない読書量と博学ぶり、また素直で気取らない人柄は、なんとなく大江健三郎さんに似ているなあと感じたのは私だけでしょうか?
私は最愛の詩人の一人であるテニスンやヴィクトール・ユゴー、ホイットマンらの詩文(翻訳文)が引用され、また彼らについての私の知らない情報が紹介してあると嬉しくてキャッキャしていましたが、フォーゲルワイデやアセンス等、本書中に訳注はあるものの辞書で引いても出てこない詩人も多く、やや消化不良な気味も。今後また調べていきたいと思います。
ともあれボルヘス入門としては非常に良い本だと思います。お勧めです。