川島芳子.この清朝末期の王女でありながら,日本人川島浪速の幼女となり,後に漢奸として中国にて処刑される女性の生き様は,実に波乱万丈だ.幼少時より浪速の影響もあり清朝再興をのぞみながら,16才のころピストル自殺を試み(その養父に強姦されたためとの説),アルバイトのためヌードになったかと思うと,髪を切って男装,さらに大陸に雄飛し行軍や満州建国に参加する.自由な現代でも,これほど強烈な人生を生きる女性はまずいないだろう.
本書は,そんな川島芳子の内面の葛藤を,あくまで学術的な視点から掘り下げて描いている良作だ.著者の寺尾紗穂がシンガーソングライターという異色の経歴を持つ若い女性であることにも興味を惹かれるが,そんなことは無関係に思えるほどの力作に仕上がっている.内面に光を当てている分,川島芳子の行動面の記述が薄くなっているのは惜しいが,いままでのテレビ的解説に物足りなさを感じている読者には特にお勧めだ.