日本の裁判では、警察の事情聴取による目撃者の証言、拘置所内での容疑者の自白、裁判中に喚問された専門家の参考証言などが、決め手になって判決が下されることが多いようです。それらの証言が真実なのか、当人がただ事実と思いこんでいる場合もありうるのではないか。記憶心理学の点からヒトの記憶の働きの問題点を分析、実際の裁判に参考意見を提出している著者の話です。
著者達も初めは仕事内容を誤解して、証言内容と事件の事実との照合を、事件現場にまで行って調査したそうです。それは警察の仕事です。一方、心理学が関わる裁判関係の仕事として、事件関係者に精神疾患がなかったか、証言に関していえば、病的な虚言の性癖がなかったかなどを、暴くのは精神鑑定の仕事です。
著者が行う供述分析で、求められているのは、健常な人間が持っている記憶の働きの詳細を、司法の場に提供すること。それにより証言が真実かどうかを裁判官達は判断できるはずです。
エリザベス・ロフタスがこれを始め、日本では浜田寿美男が独自に供述分析の仕事を始めたそうです。両人の仕事が、詳述されています。記憶の変容という普遍的な事実を陪審員に説明するのが、ロフタスのやり方です。浜田は、同一人の複数の供述調書を比較、その変遷から証言聴取の現場に生じた歪みを読み取り、供述者のウソや記憶のメカニズムで変わる場合と、取調官の尋問により変わる場合とに分けています。焦点は、証言者と取調官の対話の構図に絞られています。
著者は、供述調書と公判記録をも分析。証言者各人のその人らしさの語り口に注目、もし発言に変な語り口がある場合、そのシフトを明らかにし裁判の場に提供します。証言者が公判という自分を押し流そうとする人間関係の中で、独特な語りの運動を行うのに注目し、分析しています。
明晰で、面白く読めます。しかし大変な仕事だと思いました。