本書はそんな著者の現場経験のなかから、英訳に戸惑いがちな日本語表現をピックアップし、項目別に分類して訳と解説を施したもの。同じ語が文脈によってまったく違った英語になる様子や、「遠慮する」「こだわる」といった、いざ英訳するとなると意外に難解な日常語をたどるうちに、彼我の発想法の違いが自然に理解できるというしくみだ。
通訳は、その場その場の待ったなしの仕事である。国際舞台での同時通訳はその最も典型的な一例といっていい。本書に集められた70の見出し語と400近い用例は、そんな状況をかいくぐってきた著者ならではの高い実用性に富み、簡潔な解説はポイントを逃さずにどれもとてもわかりやすい。
それにしても、「その場の現場性」が本質である通訳という激務のさなかで、著者はこの用例のもとになるノートを、いつ、どうやって作ったのだろうか。巻末の索引をくくりながらそんなことに思いを馳せると、本書がまるで役者や演出家が作る「創作ノート」のように見えてくるのである。
通訳現場がもつ苛酷な即興性と、そこに賭ける地道な準備。その対照には、コミュニケーションという作業がもつ困難とおもしろさが、同時に反映されているように感じられた。(今野哲男) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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