表題の通り、記憶というものがいかに当てにならないかを、心理学の専門家の立場から、非常に読みやすく・わかりやすく書いた本である。
私自身にとっては特に衝撃的な内容ではなかったが、自分がやってもいないことを、やったと信じるようになるばかりか、出来事の詳細までも自分で創作してしまうという「記憶の捏造」という事実には、衝撃を受ける読者も多いのではないだろうか。
本書は記憶というものの弱さ・不確かさを冤罪事件などを例に取りながら、それでいて決して重くならず、さらっと読みこなせるように書いている。私が特に有難かったのは、記憶が歪められる原因・メカニズムがいくつも示されている点で、人間の心の中身がどうやって作り上げられるのかを知ることが出来る。昔からこういう本が欲しかった。
個人的には、フロイトを真に受けて人間不信になった学生のエピソードがとても良かった。『精神分析入門』の始めのほうに「言い間違い」とその理由付けが書いてあるが、あれは理由付けが荒っぽすぎてまったく説得力がないし、あんなものを真に受けたら人間不信にもなるだろう。本書ではカウンセラーによって「抑圧された記憶」を「捏造」されたことから生じた、とんでもない悲劇も論じられている。親にレイプされたという「抑圧された記憶」が、カウンセラーの誘導によって「捏造」されてしまった結果、子が無実の親を訴え、家庭が崩壊するという悲劇である。精神分析というのは罪作りなものだと思う。
本書は、知的好奇心を満たしてくれると同時に、生きてゆく上で重要な知識を与えてくれる。誰でも読んで理解できる本であり、誰もが読んで理解すべき本である。普及が望まれる本といっていいだろう。