数学に興味があれば、居間でも、電車でも、トイレでも、バス内でも、気楽に読めて視野が広がる本です。題名とは異なり、計算のことは殆どわずかであり、不適切な書籍名となっています。むしろ時代の最前線で活躍する二人の数学者の自由闊達なおしゃべりであり、話題の豊富さが特徴となっています。この本を通じて、離散数学、八元数、インド式計算、和算など、種々のことに広く、浅く接することができます。深めるのは読者の仕事となります。
教育関係者が本書を読みこなすときは注意が必要に感じます。現代数学には革命主義者が多いのに、小学校算数には保守主義者が圧倒的多数という歴然とした事実があるからです。物事を根底からひっくり返すという意味で革命主義ということです。百マス計算が流行した背景には、若い人達の計算力の衰えがありますが、これは意外にも約50年前からの世界的な現象であり、「フランスを初め世界の至るところで、"現代数学"の時代であった。それは中高生のための数学教育の野心的な改革である。・・・"失敗であったことは疑いない。・・・父兄達はその子女が計算もできず、問題を解くことすらできないことに気づいた"」(ブルバキ数学者達の秘密結社)わけです。公文教室の創始者は現代数学を理解した人ではなく、逆にそれが強みとなり、その繁栄を導きました。ここ50年の時代背景としては、どうしても現代数学とそれの小学校算数の導入との間に軋轢があり、現代数学者の発言=小学校教育現場での導入とは行かないのは明らかとなっています。本書の桜井氏は受験教育に携わっているので、うっかりすると当然そのまま教育へ導入できるかと誤解しやすいですが、学校数学=受験数学=現代数学ではないのです。親も含め、教育関係者が本書を読む場合、この辺に注意すれば、安心して本書に接することができます。