本書は、言葉による日本の再生を目指したものである。
猪瀬氏の問題意識は、震災という国難を克服し新しい国づくりを目指すには、新たな公共性を抱え込んだ言葉、コミュニケーションの構築が必要という点だ。
もちろん、日本の再生には、ヒト、カネ、モノ、テクノロジーといった具体的なものも必要だが、猪瀬氏の視線はその前提ともいうべきところにあり、
・人を動かす言葉の力
の必要性、重要性を本書で語っているのだ。
言葉の力(=言語力)とは何かというと、
『情報を正確に理解したうえで、相手の表現の意図や背景を推論し、根拠を挙げて自分の意見を述べ、 話し合って与えられた課題を解決できる力』
ということだ。
言葉の力をつけるには、
・概要から詳細
・全体から部分へ
・大きな情報から小さな情報
という説明のルールともいうべき言語技術の習得が必要であり、実際、猪瀬氏が副知事を務める東京都では、つくば言語技術教育研究所所長の三森ゆりか氏による言語技術教育を行っているという。
しかし、それだけで言葉の力が文字通り「力」を持つかというとそうでもない。
猪瀬氏は、言葉の選び方、使われ方といった文体にも目を向ける。
震災2週間後の菅総理記者会見など、政治家、官僚の文体を例にし、他人の言葉、流行の言葉、底の浅い誠実な言葉、内面のない言葉、地に足のついていない言葉等々、空疎な言葉を使って、いくら多言を弄しても人を動かす言葉の力にはならないという。
文体ばかりは人の資質の問題なのかもしれないが、そういってしまうと元も子もない。
猪瀬氏は、歴史意識を持つこと、感性を磨くこと、好奇心を持つことの重要性を説いており、これが言葉の力につながる文体を身につける一つのヒントになると思う。
最後に。本筋とは違うところで個人的な感想を2つ。
1つは東京都の研修について。
最近、英語の公用化など、英語研修に力を入れる企業が話題になるが、それ自体は必要なのかもしれないが、東京都の取り組みはより本質的で骨太なものだと思った。
2つ目は、ファティックについて。
この本で、ファティック(phatic)、という言葉を初めて知った。例えば挨拶や、天気の話など、「場」をつなぐ言葉のことで、これは人と人をつなぐきっかけとなるもので、言葉の力には重要だが、日本人には欠けているという。
私自身、このファティックが欠けているな、と実感させられた。