自分はくるりの熱心なファンな訳ではなかった。作品を追いかけるのも飛び飛びで、その度彼らの音楽の造詣の深さは伝わるが、
それ以上のものを感じられなかったのだ。
ふと、何気なく今作の試聴をしたところ、自分でも驚く程心のど真ん中に「すとん。」と彼らの音楽が嵌り込んだ。今まで愛着の薄か
った岸田氏の声に心打たれたのはなぜか?ああ、余計な力が入っていないのだ。こちらが思わず鼻歌したくなる程楽しく人懐こい
旋律。自分の心に彼らが急接近してきた感じ。密かに自分はくるりにこんな作品を期待していたのかも。
本作収録の12曲は、バンドサウンドがより簡素になり、岸田氏の紡ぐ旋律の良さがより分かり易く伝わる。また言葉も然り。歌詞カ
ードを読めば分かるが、本作に詰め込まれた言葉に難解な単語等一つも無い。また岸田氏の歌声もより前に押し出されている。
本作の大きな特徴として「日本」を意識していることが挙げられる。2曲目の「さよならアメリカ」で彼らの居場所はここ(=日本)だよ、
と早々に外国に別れを告げてからは、盆踊り風情のロック「東京レレレのレ」、ほんわかした湯の町ナンバー「温泉」と、旋律も岸田
氏の節回しも、良い感じに力の抜けた和風ロックが続く。「FIRE」の淡々とした歌い方等思わず吉田拓郎を連想してしまった。
これまでの彼らの作品は常に音楽シーンの最先端を狙った様な堅さが感じられ、聴く時点で既に身構えてしまったのだが、今作で
は音の斬新さよりもシンプルに心地良い旋律・言葉への追求を重視している。しかも彼らに大人の余裕とユーモアが生まれ、聴き
手が簡単に入っていける懐の深さがある。それこそ幅広い年代の音楽好きに愛好されるのではないか。
音楽家が聴き手に純粋な音楽の楽しさを与えるという、現音楽シーンでは中々得難い感覚を与えてくれた一枚。本作で彼らの認識
を変えるきっかけとなった一人である自分が推薦したい。
(DVDについて…本頁の商品説明に書かれている通りで歴代のPVが多く収められているので、コアなファンの方はお薦め。ちなみ
に秘蔵映像の方は10回位ランダムに再生して1種類見れました。スタジオ舞台裏の一風景的なプライベート映像で、何種類あるの
かは判りませんがこれもコアなファン向けかも。)