読後にこれほどの充足感と痛快感を味わえたエッセーは、数年来記憶に無い。冒頭からスロットル全開の著者の論調に引きずり込まれ、それが最後まで続く。以前抱いていた著者に対するイメージが、本作で変わった。
家族で囲む食卓の重要性、同性結婚、海外でブランド物を買い漁る若者達、新聞の流行語等々、扱う題目の範囲は広い。「ふむふむ、なるほど」と初めは一般的通念に誘導するようにみせかけて、実は「えっ!?そう来たか」とこちらの思慮浅い考えをあっさりと覆す、深く時に手厳しい洞察が披露される。そして、「さて、次はどう来る?」と、どんどん先を読み進むことになる。
前半部分のコメント、「これほどの繁栄の中に、これほどの精神の貧困が到来したことが、私は単純に不思議でならない」に、著者のメッセージが凝縮されているような気がする。
井形慶子著「日本人の背中」(サンマーク出版)に続いて本作を読んだせいか、本作の素晴らしさが一層際立った。日本人の特性を褒めるにしても自己批判するにしても、常に海外からの視点におもねて付和雷同な意見に終始する井形に対し、本作は何と気骨にあふれ、芯を食った洞察に満ちていることか。自身の海外体験談が豊富に引用されている事がわずかに両者で共通した点だが、それらの解釈の仕方や持論の展開に、隠しようもない著者の器の違いを感じる。
脱帽。