コミュニケーションが難しくなる原因を、人間個々人の持つ認知・感情・アイデンティティに求め、かつこれらと上手く付き合い(抑制するのでもなく、無視するのでもなく、あるがままに受け止める)ながらコミュニケーションを上手く行うためにはどうするとよいのか、を解説した本です。
類書の多くは、コミュニケーションの主題や互いの利益をどうすべきか、について扱っていますので(著者らが所属するハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトでも同じ)、生身の人間を中心に据えた本書はそれだけで貴重なものだと思います。
またコミュニケーションについての学術的な書籍には、文化の違いによるコミュニケーションギャップを扱ったものが多いのですが、本書ではそれらを超えた人間であることの特性を踏まえた解説をしていますので、この観点からも貴重なものだと思います。
コミュニケーションについて、テーマ(目的や利益)、文化(前提や常識)、人間(認知・感情・アイデンティティ)という3つの側面が重要だということが、本書だけでなく上述の書籍を通じて理解することができました。
更に生身の人間の本質に迫っていますので、すっきりした解決策はなく、やらないよりはやったほうが上手くいく、というものがほとんどです。ただそれが逆に真実味を増しているのだと思います。
「これだけで上手くいく」という類のコミュニケーション手法・技法の書籍を読んで違和感を覚えていましたが、その理由が本書でわかりました。本書をベースとしたうえで、これらの手法・技法を活用することで、手法・技法が生きてくるのだと思います。
これまで心理学・脳科学の書籍をいろいろと読んできましたが、本書でこれらの学術的な知見とコミュニケーションという日常が上手くつながりました。
残念なのは、参考文献が一切載っていないこと(載っていれば更に深堀りできるのですが)と、邦訳の署名が本書の内容と合っていない(会話術という表層的なテクニックだけでコミュニケーションすることを著者らは否定しています)ことです。