序 文
医療情報技師が求められる背景
わが国では,病院情報システムの導入が著しく進んでいるにもかか
わらず,医療改革に必要な医療サービス等の内容を明らかにするデ
ータを出せる医療機関が極めて少ないのが現状です.このような事
態が生じている理由として,
1) 医療サービスの内容等の評価基準が明確に提示されて
いない
2) 現存する多くの医療情報システム(電子カルテシステ
ムを含む)とそのデータベースが,種々の評価指標等の
データを出せるように作られていない
3) 医療機関内で,それに対応する専門組織,情報管理体制
が整備されていない
4) 医療情報システムの導入にあたって,医療機関側の技術
力不足により医療情報システムを提供する企業側に問題
を提示できていないことがある
などが挙げられます.さらに,扱う情報が特殊で,専門性が高い医療
の分野においては,医療の専門性を踏まえた情報化・システム化が
必要であり,それには医療情報システムを担う専門的人材が医療の
分野に適正に配置され,処遇されることが必要ですが,わが国におい
ては,
5) 情報システムの企画,開発と運用を担当し,かつ有効に利
活用していくことのできる専門性と使命感,資質のある情
報処理技術者が,医療機関にも,情報システムを提供する
企業側にも極めて不足している
という根本的な問題があり,医療情報技術の人材育成が急務となって
います.日本医療情報学会では,こうした医療の分野の要請に応えて,
「医療情報技師能力検定試験制度」を発足させ,「医療情報技師」の
育成に取り組んでいます.
医療情報技師育成の取り組み
日本医療情報学会では,医療情報技師の育成にあたって,「医療情報技
師」,「上級医療情報技師」と段階を分けて取り組むこととし,まず
「医療情報技師能力検定試験」を平成15年度から開始しました.「医
療情報技師(Healthcare Information Technologist: Health IT)」は,
「保健医療福祉専門職の一員として,医療の特質をふまえ,最適な情報
処理技術にもとづき,医療情報を安全かつ有効に活用・提供することが
できる知識・技術および資質を有する者」と定義され,医療情報システ
ムの観点からは,開発側の技術的素養を持ち,医療固有の情報の特性に
精通し,人的・組織的要因を含めて医療情報システムの運用管理に長け
た人材です.このような人材を育成するために,日本医療情報学会では,
医療情報技師育成部会を組織し,教材の開発,講習会の実施,検定試験の
実施など,様々な活動を通じて,医療情報技師の育成に取り組んでいます.
医療情報技師には,情報技術全般に関する基本的な知識・技能のほかに,
医療特有の情報システムに関する知識,医療支援に必要な医学・医療の
基礎知識が求められます.これらは,「医学・医療」,「情報処理技術」
および「医療情報システム」の3領域の知識と技能として,体系化・整理
され,到達目標(一般目標,個別目標)注の形で設定されています.また,医
療情報技師に必要な資質として,知識・技能のほかにCommunication,
CollaborationおよびCoordination(医療情報技師の3C)が挙げられます.
注 医療情報技師の到達目標である,一般目標: GIO (General
Instruction Objective)と個別(行動)目標: SBO (Specific
Behavioral Objective)の詳細は,医療情報技師育成部会のホ
ームページに公開されていますので,ご参照ください.
3領域の到達目標に基づいて,3編の教科書:
「医療情報 医学・医療編」
「医療情報 情報処理技術編」
「医療情報 医療情報システム編」
が編纂されています(篠原出版新社,東京).書名の「医療情報」は,医療情
報技師に求められる知識・技能・資質を包括する概念を表していますが,
その背景には「医療情報学」があります.3編全体としては,「医療情報」
の本格的な書籍であり,医療情報技師を目指す方々にとっての学習図書で
あるだけでなく,医療専門職,医療機関の管理者,医療関連企業や医療行政
関係者,医学・医療関係の学生など,幅広い層の方々にとっての参考書とし
て位置づけられます.
医療情報技師能力検定試験
医療情報技師能力検定試験では,「医学・医療」,「情報処理技術」,「医療
情報システム」の3科目の試験が課せられ,このすべてに合格した方が,「医
療情報技師」として認定され,認定証が交付されます.認定証の有効期間は5
年間となっており,5年経過後はポイントによる更新制度によって認定証の更
新を行うこととなっています.第1回医療情報技師能力検定試験は2003(平成
15)年に実施され,2007(平成19)年には第5回の検定試験が実施されました.
この間に,6,087名の方々が医療情報技師として認定されています.
医療情報技師能力検定試験の受検者は,以下のような方々です.
1) 保健医療福祉機関において(あるいは保健医療福祉機関から
委託を受けて),医療情報システムの企画構築,運用管理,医療
情報の活用に関わる方々
2) 医療情報システムのベンダあるいはメーカにおいて,システ
ム設計開発,保健医療福祉機関への説明・教育に従事する方々
3) 保健医療福祉機関からの検査受託など医療情報を取り扱う情
報システムに関わる方々
4) 医療情報システムの企画構築・導入,医療情報の活用のコンサ
ルタントとして活動される方々
5) 保健医療福祉関係団体において地域医療情報システムの企画
構築,運用管理,医療情報の活用に関わる方々
6) その他,医療情報システム,医療情報の処理および活用を専門
に活動されるすべての職種の方々
7) 上記のような職種に従事することを目指す学生の方々
上級医療情報技師能力検定試験
「上級医療情報技師(Senior Healthcare Information Technologist: Senior
Health IT)」は,「医療情報技師」の上に位置づけられる資格で,
「保健医療福祉分野でのシステム化にあたり,現状分析に基づい
て企画を提案でき,開発,導入,運用の各段階において,適切な手
順を理解し,リーダーシップを発揮できる者」
と定義されます.
上級医療情報技師能力検定試験では,一次試験として筆記試験を,二次試験とし
て論文と面接の試験を課し,これらに合格した方を「上級医療情報技師」とし
て認定しています.「上級医療情報技師」は,「医療情報技師」の上に位置づけ
られる資格であることから,5年以上の実務経験を有する「医療情報技師」であ
ることを受験資格としています.
上級医療情報技師能力検定試験は,2007(平成19)年より開始し,合格者は81名
となっています.
本書の内容
本書は日本医療情報学会・医療情報技師育成事業の一環として出版するもので,
日本医療情報学会が刊行する学術雑誌「医療情報学」に掲載された「連載:医
療情報セミナー」をもとに編纂されています.医療情報技師能力検定試験におけ
る過去の問題を取り上げ,問題の解説を行うとともに,その背景にある「医学・
医療」,「情報処理技術」,「医療情報システム」の各領域における専門知識・
技術,最新動向などについて解説を行っています.
「医療情報システム」は新しい領域であり,同領域の解説は,すべての読者層を
対象としています.一方,医療情報技師育成事業は幅広い層の方々を対象として
おり,医療専門職の方々も,情報処理技術者の方々も含まれることから,「情報技
術者のための医学・医療」,「医療従事者のための情報処理技術」のように,読
者の多様な背景を想定した解説も工夫しています.
本書は,教科書「医療情報」(全3編)の理解を深めるための補足的な教材として
位置づけられます.教科書「医療情報」(全3編)の読者の方々には,それぞれの目
的に応じて,本書を活用いただければ幸いです.
なお,医療情報技師育成事業に関する詳細については,日本医療情報学会医療情報
技師育成部会のホームページをご覧ください.
2008年3月
有限責任中間法人日本医療情報学会
医療情報技師育成部会
登録情報
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