本書が扱うテーマはかなり広くて、そのぶんやや散漫かもしれない。もっとも価値があると感じたのは、宗教を研究するとはどういうことかの念入りな議論。特に蓄積された人文社会学の知識と、自然科学の論理の統合は必要不可欠なはず。信仰の理由を人に尋ねても、返ってきた答えが本当にその人の信仰の理由を表しているとは限らない。嘘をつく気がなくてもその場限りの理由をでっち上げてしまうことがある。このような現象は認知心理を理解しなければ扱えないだろう。個人心理としても社会現象としても、宗教を分析し解釈するためには自然科学の確かな理解に基づかなければならないというデネットの指摘には説得力がある。
本書のポイントを簡単にあげると
●宗教を研究するとはどういうことか?
−宗教が超自然的な現象を含んでいるとしても、それを信じる心理や社会に与える影響は自然現象として研究できる。
−宗教や文化を自然科学から独立した存在であると主張したギアツのような社会科学者を「学問的に孤立した」と批判している。文化も人間という生物が引き起こす自然現象なのだ、と。同時に生物系の宗教研究者は自分の知っている少数の例から一般則を安易に引き出したがる傾向があり、文化人類学者の集めた知識を真剣に検討すべしと釘を刺している。
●宗教の起源
−ボイヤーの『神はなぜいるのか』の方がまだ読みやすい。特に信仰心の生物的進化と、ミームとしての宗教の文化的進化の問題が入り乱れており読み進めるのが面倒。
●これから宗教にどう接すべきか
−デネットは宗教を直接批判しているわけではないが、教典を理由にした道徳的主張には批判的だ。道徳の議論は客観的な論理に基づいていなければならない。また宗教過激派を抑制する義務が穏健派にもあると主張する(酔っ払って犯罪を起こした人だけでなく、酒を出した人にも責任はあるということ)。