1973年の作品。時は未来社会、不可解なタイムスリップ現象が頻発し、主人公の元大統領顧問ボーデンラントは現れた過去の空間に迷い込み帰れなくなる。その過去の世界は1816年のスイス。そう小説「フランケンシュタイン」を書いたメアリシェリーの生きている時代。彼はそこで架空の産物のはずの人造人間を目の当たりにする。簡単に解釈すれば、ディキンスンの「過去に戻された国」の様に現代の科学万能の社会への風刺作品であり、解説にある様にSF史研究に力を入れていたオールディスがそのSFの開祖とした「フランケンシュタイン」研究のついでの産物と言えるのだが、博物学的な好奇心で書かれただけでは無い深い作品です。人間が全てを支配出来ると過信した未来社会、その過信が産み出した自然界、時空と人格の崩壊を実に見事に描いているのだが、これは、後書きの荒俣氏の解説がテーマの概要をずばり言い当てているので、これを読んでもらえばいいだろう。しかしこの作品は詩的な場面場面の美しさにも秀でている。まるで作者の感情が迸った様な主人公とメアリの愛の囁き、時空を超えた愛。生まれ出た人造人間の知の吸収源はミルトンの「失楽園」だったが、創造者に「なぜ生命を授かったのか?この様に奪われる物をなぜ無理に強いる?」と疑問を呈する所などは、恐ろしくも美しく、創造者を神に、自らを追放されたサタンに、そしてもう一人の女の人造人間とをアダムとイヴに比し不器用にも愛を交わす描写は何か切なく感動的でさえある。そして最後の終焉の描写、造られし者の言葉が胸に響きます。人類の負う責任、産み出す物の責任無き欲望を憂いている様に思え、これを中絶手術への暗喩と取るのは飛躍しすぎであろうか。他にも登場する詩人バイロンやシェリーとの問答なども一字一句無駄な部分など無い。難点はこの多少、作者都合の詰め込み過ぎな部分を読む人によっては、作品の主眼点が定められなくなるかも知れない所でしょうか。