吉野家の牛丼並みの廉価で買える文庫本だが、これが侮れない。文芸評論家の縄田一男が編んだ、市井ものの時代小説の好アンソロジーです。時代小説の初心者にもお勧めできる内容と言えるだろう。
収録作品は、池波正太郎「おっ母、すまねえ」、平岩弓枝「邪魔っけ」、松本清張「左の腕」、山本周五郎「釣忍」、宮部みゆき「神無月」の5篇。それぞれの作風の違いがよくあらわれている秀逸な短篇ばかりを選りすぐっていて、ハズレがない。
時代小説のこの分野の名手であった山手樹一郎や藤沢周平らをあえてはずして、若手中堅の宮部みゆきに大先輩たちと肩を並べるかたちでトリを務めさせたという意外な人選に注目。
それほどに「神無月」は間然するところのない珠玉作です。さらに言えば、映画のカットバックをおもわせる構成のたくらみが最後に生きてくる傑作ミステリでもある。しかしながら、裏表紙と解説の文章が宮部作品にかぎってネタバレになっていることは納得いかない。未読の読者は、まずいきなり収録作の本文を読んでください。