正直に言うと、読む前は、錯視現象等を楽しく紹介するだけのお気軽な本なのだと思っていた(それはそれで楽しい本だと思うが)。「まえがき」を読み始めて、すぐ自分の勘違いに気づいた。「視覚の発達」を正面から取り上げた実験心理学の本。
本書の特徴は、知覚の発達的側面に焦点を当てているところ。乳幼児を用いた実験研究、視覚障害者や脳損傷患者の示す症例、動物を用いた実験研究、等から得られた様々な知見を挙げ、運動視、立体視、かたちの知覚、顔認識、等の基本的な視覚機能の成立過程を追うことにより「視覚世界の謎に迫る」。内容はやや専門的だが、一般読者を対象として想定していると思う。
知覚は心理学の伝統的なテーマだけに、逆に言うと古臭いテーマという印象をもっていた。ゲシュタルト心理学の時代からほとんどかわっていないのではないかと思っていたのだ。また、かわっていくのだとしたら、主観的な「見え」というようなソフト面ではなく、脳神経というハード面に焦点が移らざるを得ず、最終的には脳科学や神経科学に吸収されてしまう運命にあるのではないか、とも思っていた。本書を読んで、現在の知覚心理学に対する印象がかわった。
専門家にとっては特に目新しい内容ではないのかもしれないが、新しい知覚心理学の姿を垣間見たように思った。