森達也には「A」や「A2」などの映像作品、「下山事件(シモヤマケース)」や「死刑」などの書籍と、綿密な取材・論考による作品群がある。ここ数年の雑誌・新聞などに発表された論文を元に構成・加筆された本書は、密度から言えば明らかに浅い。
密度を求めるならば、それら個々の作品を観るなり読むなりすればいい。
ここにあるのは、それらを生み出した主体としての森達也の視点なのだ。となれば、浅くても広いほうがいい。いわば寄せ集めの作品群で構成されている本書は、その役割を十分に果たしている。
人が一つの見方しかできないのであれば、「視点をずらす」ことなんてできやしない。しかし、実際は多くの情報からいくつもの視点を得ていながら、(本書の言葉を通じて言うなら)KYと言われたくないがために他人と同じ視点を選び出しているのだ。
とすれば、視点をずらすためにはちょっとした自覚が必要となる。
森達也のこの本は「視点のずらし方」を説いたものではなく、そういう、視点をずらすことによって何が見えてくるか、ずらすことがいかに大切か、を書いた本である。