樹村みのりをご存知でない漫画ファンは結構多いと思います。
帯には「感動の巨匠」とありますが、それほどの巨匠がなぜ知られてないのかという疑問はすぐに湧いてくるでしょう。
それは、彼女が寡作であるのと、漫画界があまり彼女を評価しなかったことと関わりがあります。
人間の暗部を精緻に見つめ、痛いもの悲しいものを臆することなく描くその深い作風は、きっと当時の商業主義と相容れないところが多かったのでしょう。
彼女はそれでも媚びることをせず、黒人問題、強制収容所、家庭内での母と娘の対立、カルト集団批判などといった問題を扱いつづけました。
そうした彼女の姿勢に発表当時には反応しないでも、後々まで共感し続けた読者は存外に多かったのです。
朝日ソノラマはそんな彼女を高く評価しました。
作品掲載の場を与え、自由な作品作りを許した編集部と、長く新作を待ち続けた熱心なファンに、樹村は少ないけれどもずしりとした重みある作品で応えました。
それがこの本収録の「見送りの後で」「星に住む人々」「柿の木のある風景」です。
人間の死と生、一つの家族の姿、古き世代への追憶と、人間にとり根源的な題材を扱った作品群は、容易に読みこなせるものではありませんが、
そのために、読み終えた読者の胸にはいつまでも重く残ることでしょう。
人が生まれ、子を生んで、死んでいく。それだけのことが哀しく、そして喜ばしい。
そんなことを描く人がまだ生きていて、漫画を描いていて、自分と同じ星に住んでいる。こんな奇跡のような体験を味わわせてくれたことにひたすら感謝の思いです。
18年ぶりの新刊です。二十余年を経て、初めて単行本に収録された「風のささやき」「また明日、ネ」を含めるなど、値段の何倍もの価値があるので、ぜひ購入することを勧めます。