「突撃する。蜂起する。俺たちは戦争に勝利する」
海人は短い言葉で会議をしめくくった。
『裸者と裸者』『愚者と愚者』に続く応化クロニクル三部作、完結編。近未来の日本を舞台に、泥沼化する内戦の実態、そしてそこに生きる人々を描いた渾身の傑作。作者急逝により絶筆となってしまったが(本書は下巻の5分の4あたりで終わっている)、それでも、こうして本書が刊行されたことは本当に嬉しかった。
人の死に対し無感動にならざるをえないほど、多くの命が奪われる理不尽で、不公平で、不条理に満ちた世界。過去2作と同様に、本作でも数え切れないほど多くの命が消えていく。安直な倫理観など何の足しにもならない悲惨な世界、「永遠の愛を誓うそばから、恋人たちが頭を吹き飛ばされる世界」において、だからこそ、そこで生き抜く登場人物らの姿は輝いて映り、胸を打つ。世界の混沌は混沌として整然と露わにしながらも、決して無慈悲にあらず、希望とも言いうる真っ直ぐな力が感じさせるところに、本書の、そして打海氏が描く世界に宿るかけがえのない魅力を感じる。
本作の第一章でも、自らの命以外は全て奪われた難民の姿が描かれているが、「世界の理不尽さをどうにもできない自分自身への悔しさ」を感じた人間が、それでも生きていくことを選ぶ強さには、何か眩暈にも似た形容不能な感情を覚える。美しくない世界を生き抜く人間の姿が美しいのは、何時の世も同じことで、そういった意味で本シリーズは、戦争文学における優れた作品であると同時に、理不尽で、不公平で、混沌に満ちた現代を生きる人々の心に差し込む光を湛えた無二の名作でもあると思う。
「忘れる。頭をあげる。前進する」
椿子が快活に言った。