歴史オタク諏訪のおなじみ独自解釈の楽しい物語。諏訪の作品はあまり一方的な「悪い奴」が出てこない。物事を一面的に断罪しない誠実さは彼女の最大の魅力だ。今回はいかにもな悪役が登場するが、お話は続きそうなので次回作の楽しみにしている。
少女の造型がいつも魅力的。主人公ザールの妻となるカーブルのお姫様ルーダーベは料理オタク。可憐で意思が強い。一見おちゃらけの父王とのやりとりは「時の地平線」の英さんみたい。
霊鳥のヒナ、シリエルとバリエルも諏訪おなじみのコンビ造型でワンパターンなのだが、愛すべきキャラクターである。
物語の舞台はペルシャ地域、ゆえにヒナたちの名前から天使を連想するが、併録の「ヨナの受難」にも彼らが天使の一人として登場するのも面白い。
それにしてもヨナの物語は、諏訪の手にかかるとこうなってしまうのか!と感心した。
ヨナは使者アザレアを通して、ニネヴェを60日後に滅ぼす、という預言を受ける。
が、託宣に背き反対方向へ逃げ出す。堕落して贅沢に任せた人々が滅びるのは自業自得と諭す使者に彼はいう「貧しい村ってひとり残らず貧しくて…でも豊かな街がひとり残らず豊かってことはなかった/豊かな人は少しで貧しい人の方が多い」。
ユダヤの神は、妬み殺す残虐で傲慢な神である。
全知全能ならなんとかすればいいのに、と幼いころ私はよく思った。
ヨナ書は独善的なユダヤ神話の中でも独特で、短い文書である。ヨナがとうごまの庵を立てたのはニネヴェの人々を「見守る」ためではなく監視するためだったが、諏訪はヨナ書にある悪感情をさらりと転換させ、ほっこりとした世界を見せてくれた。