真実の愛を求めつつも、これでもか、という感じで次々に襲う不幸に翻弄され、御所に仕えていた娘・お春が、最後は化け猫と言われる程に老醜を晒すに至る、転落の様を、溝口監督が非情とも言えるカメラで捉え、突き刺すように酷薄さが強調される脚本・演出に田中絹代が素晴らしい演技で応えた、溝口健二監督、いや日本映画を代表するとてつもない作品。
黒澤明監督作品のような娯楽性はない。溝口監督・田中絹代コンビでしかこれほど悲惨な時代劇を映画芸術の高みに昇華させることはできなかっただろう。
撮影・演出に関しては長回しのオン・パレード。初めに出ていた人が消え、異なる所から再び現れるショットが多く、俳優の登場位置やタイミングが計算され尽くされたように決まっている。カメラが回っている間に襖の陰等を移動する俳優は大変だったと思う。見えない所での俳優の動きと滑らかなカメラワークに刺激を受ける。
印象深いシーンばかりだが、女の命の髪を巡るバトルや老いて街をさすらうお春の姿が殊に強烈だ。
三船敏郎が出演するが、黒澤作品とは全く印象が異なる。溝口・黒澤両監督の演出・個性の違いを反映していて面白い。
なお、他のエディションと見比べたことはないが、本エディションの画質はイマイチ。暗い場面は観づらい。明暗の対比がもっと鮮明なら文句なしに星5個なのだが。音もノイズのため聴きづらい個所が少しある。