西行。1118年、武士・官吏の家に生まれたが23歳のときに出家し、没するまで修行を続け、当代一の歌人とうたわれた人物である。
たとえば小林秀雄なら、仰ぎみる姿勢のまま極限まで人物に近づいて、その背景にあるものを推論し、その思想の根源までわけいるかもしれない。
しかし、辻邦生が描くと叙情的な絵巻物になるのがたまらなく魅力的だ。
辻邦生は、決して長くない生涯で西欧の歴史や事象を材とした作品を多数残しているが、その根底に必ず幻想的で静謐な物語がある。
あたかもその場面に遭遇しているというより、さらにファンタジックな寓話的なストーリーだ。この西行の行状記もその例にもれない。
ここに描かれる西行と親交のあった人々のモノローグ、その一言一言に温かい視線を感じる。山を歩き、峠を越え、河を渡って歌を書き連ねた西行の姿がはかない夢のように浮かび上がってくる。
なぜ日本人は花鳥風月を愛で、癒されるのか? そのことがしんしんと胸に迫る必読の1冊。