西洋美術は、識字率の低い時代に文書のかわりに何かを伝えるメディアの役割を担っていたものであり、そこに描きこまれたものの意味を解析する「図像学(イコノグラフィー)」の視点のみならず、なぜその時代にそうしたものが描かれたのかまでを読み解く「図像解釈学(イコノロジー)」の素養を身につけることが、効果的な美術鑑賞術となることを教えてくれる書です。
表題通り、まさに入門書といえる、平易な解説がありがたい一冊です。
偶像崇拝を禁じていたはずのキリスト教カトリックで絵画芸術が花開いたのもまさに読み書きのできない信者に向けたメッセージをのせるツールであったためですし、聖母マリアや大勢の聖人を崇拝する絵画がたくさん見られるのも、キリスト教以前のローマで信仰された多神教の影響を受けているという説明は、頷きながら読みました。
一方で識字率が上がった時代に登場したプロテスタントが、聖書に立ち帰って偶像崇拝を徹底させたという説明もまた、芸術を生んだ時代背景を知ることの楽しさを教えてくれるものです。
ただし3点だけ気になった箇所があります。
ひとつは印象派が「十八世紀の第四・四半期に登場した」(127頁)とありますが、「十九世紀の第四・四半期に登場した」の誤りでしょう。
もうひとつは第4章までと第5章とで活字のポイント数が異なる点です。老眼の進んだ私のような読者には、第5章の文字が一転して微小になったため目が疲れました。
さらに気になったのはアンディ・ウォーホルのキャンベルスープ缶を描いた作品についての記述です。
著者は「誰もが大量に製造された同じものを食べるという、大量消費社会そのものに対する批判的な視線がそこにはあるのです」(181頁)と書いています。
しかし、私が以前読んだ宮下規久朗著『
ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡』 (光文社新書)によるとウォーホルは、大金持ちも極貧民でもコカ・コーラを等しく飲めるアメリカの素晴らしさを称揚していたというのです。さらにいえば、ウォーホルは芸術家の説教めいた思想性に背を向けたタイプであるから、キャンベルスープ缶のシリーズにも単調でつまらない生活の繰り返しといった批判性はないとのことです。
私にはこの説明のほうが得心が行くのですが、実際はどちらなのでしょうか。