読み始めると、著者の華麗な海外での経歴ときらびやかな友人関係が開陳され、圧倒されてしまい、これはもしかするとあの懐かしい「斉藤澪奈子さん」の再来かと思ったほどでした。ただ読み進むにつれ(101ページのワインの非選択についての著者の一家言はその通りですね)、この斉藤さんよりも10歳以上若い著者の真意がわかるようになってきて最後まで読み進むことができました。ここで取り上げられるのはスタンダードな西欧での常識です。常識から外れる異端やキッチュは、正統への正確な理解とそこからの「ずれ」と「はずし」への正確な認識があってこそ、意味を持つという単純な真理です。「美術は見るものではなく読むもの」であるというメッセージを持つ著者の視角は貴重です。いつも海外の美術館で、OLD MASTERSは飛ばしてすぐ近代以降へと眼を移してしまう私にとっても参考になりました。ただこのような勉強を「読むこと」を通してできる暇も金も語学力もないというのがほとんどの日本人にとっては実情ではないでしょうか。むしろ西欧文化への皮相的な関わりからの断絶こそが唯一の選択肢なのかもしれません。最後の「メメント・メリ考」は短いながらも味わい深い一章です。ここでは著者による過去の祖先との連続がバリ島での不思議な経験を通して語られています。