本書の訳題といい、殺人現場に残されていた時計といい、序盤は『七つの時計』を思わせるスパイ・スリラーもの。
加えてポアロ登場だが、スパイ・スリラーものとしても本格推理ものとしても中途半端な作品である。
まず、いきなり1ページ目から事実に反するアンフェアな記述がある。
それに、メモに残された記号の意味は、エラリー・クイーンのレーン四部作(のうちのある作品)を読んでいれば誰もが思いつくだろう。
ポアロの推理も単なる説明に過ぎず、およそ推理とは言えないシロモノである。
本書を読むと、60年代以降の作品の大半が凡作以下という世評は、まさしくそのとおりだと思わざるを得ない。
なお、ポアロは『鏡の国のアリス』から「セイウチと大工」の詩を引用してコリンにヒントを与えているが、この詩はエラリー・クイーンの『フランス白粉の謎』にも引用されており、こういうつながりがあるのは面白い。しかし、ポアロのヒントは無意味というか、逆に読者に対する目くらましのようなずるさを感じさせる。
また、ポアロは解決編で「くぎが不足で」というマザー・グースも暗誦しているが、それもまた無意味である。