著者は長年の司書経験、それも服飾の専門大学に勤めて、西欧の魅力ある服装の数々を脳裏に刻んで来られたのであろう。それらの蓄積が、君主や皇帝の服装からはじまって、戦士、農民服、伝統衣装、スポーツ服にいたるまで丹念に渉猟されている。例えば、フランス王宮時代、パニエ・スカートが大きくて、正面から入れず蟹のように横向きでドアをしずしずと入る、というところが紹介されているが、貴族の生活の大仰さがなんともおかしく感じられる。戦士の項では、オスマン・トルコの軍隊に食事を分ける、人の背丈よりも大きいスプーン持ちの専従がいたとか。牧草地から牧草地に移動する国民であってみれば、そういう専門職が生まれたのであろう。細密の絵が口絵で紹介されているが、普段見たことがないせいか、そのたたずまいがなんとも今の感覚からして、妙(たえ)である。
社会史を見直す上で、その土地や時代の「服飾」検証が有効なことは分かっていても、その具体的な手段がこれまで、見いだせずに来たのではないだろうか。アーカイブズの使命は、それを分析することによって社会の有様の再生(再現)を担う、という。
今回60点の図版によって、西欧社会の一端が見事に眼前に現れたように感じられ、タイトルの「装いのアーカイブズ」の言わんとしているところが分かった。
西洋史の副読本としても好いだろう。多くの人に薦めたい。