平成21年1月4日付日経朝刊に「裁判員制度、小説に」という記事に紹介があったので手にした一冊。紹介されていた書は、「京女殺人法廷」姉小路祐著、「犯意」乃南アサ著、「死刑基準」加茂隆康著、そして本書「裁判員法廷」渡辺拓著である。本書の舞台はxx地方裁判所2009号法廷、裁判長は藤巻脩吾、ロマンスグレーの温厚そうで紳氏的、裁判官の玉村君枝は化粧無しにしては十分にみずみずしく物静か、判事補の青井涼太は学生のように若々しくお調子者の新入社員という感じの3人の職業裁判官。三つの話からなる連作ミステリーであり、1番目「審理」は検事の菊園綾子と、弁護士の森江春策の法廷弁論が主であり、2番目「評議」では3人の裁判官と6人の裁判員、野々内信人は30代後半の美術教師、福中郁代は40代半ばの主婦、佐橋薫は背広・ネクタイの自称サラリーマン、実は病院勤務医、浅葉理佳は最年少のOL、音川洋彦は無職の青年、そして6人目の裁判員が「あなた」と呼ばれる読者、が事件を法廷内或いは別室で考える。いずれの裁判も単純ではなく、特に3番目の「自白」では、被告は殺人を認め、弁護士は無罪と言う。その解明に裁判官と裁判員が議論するが、正直その場面に裁判員として立ち会ったら複雑で微妙な事件に頭を抱えるだろう。まず「あなた」に課せられた責任は非常に重い。被告という一人の人間の生と死に深く関わることになる。多数決であり、他の5名に責任を任せ切りにすることは出来ない。生半可な気持ちで裁判員の役割は果たせない。その為にもこれからの裁判員制度を扱った小説は有用だろう。
本書の法廷の藤巻脩吾裁判長は話術や一般市民への話し方は巧みであり、裁判官にかつて求められたことのない能力を持っているという。裁判長は裁判員をまとめるマネジメント能力が大いに必要なはずである。一方裁判員候補も色々と本制度に意見はあるのだろうが、裁判員になった以上は見苦しい忌避言動を取るべきではなく、真剣に与えられた役割を十分に果たすべきだろう。この数日間という期間は、知力、気力を充実させしっかり事件に向き合いたいものだ。