被爆を当事者の問題とだけ考えてしまう人にとって、
「何も残らない」小説集だ。
そういう人は、本書をなんて失礼な本だろうと思うかも。
「当事者の問題とだけ考える」人とは、
被爆した人々の心情や心理とか、
彼ら(彼女ら)が今何を考えているかとか、
被爆者を先祖や身内に持つ人々はどう思っているかとか、
つまり、被爆者や関係者の心理や論理に焦点を当てた物語を読みたいと欲する人のことだ。
そういうのを欲する人は「夕凪の街/桜の国」でも読んで下さい。
田口ランディは社会や歴史、あるいは精神のリレーについて考えている。
心が(せめて自分なりの確固とした考えが)ないのに、
「平和について考えてる」なんていう体裁をとりつくろってよいものかどうか(一話目)。一人の女性の摸索の記録である。
重大事件の被害者や薬害エイズの被害者たちなどの彼ら(彼女ら)の堂々とした態度や前向きな発言に、事柄への理解や共感よりも速く、「自分はあんな風にはなれない」とか、「ひょっとして彼ら(彼女ら)のダメージはそれほどではなかったのではないか。自分が生きていることのほうがよっぽどシンドイ。なぜなら彼らのように心を奮い立たせることもできないから」という風に考えてしまうことは、よくあることだ(2話目)。21世紀初頭を生きるシンドさにほとほと参っている中学生と、被爆者との交流とディスコミュニケーション。
他も、こんな調子で「原爆体験」は、現代のどんな問題と補助線を結びうるのかを考える内容なのだ。
「面白い」とか「感動した」とか「心揺さぶられる」とは縁遠いが、
確かに思考を刺激する作品だ。
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