ダメ男のサクセスストーリーといえばそれまでなのだが、序盤はエリートが集まる大手広告代理店に、役員報酬3千万円で社員のストレスのはけ口となるべく雇われた”羽ヶ口信男”こと鈴木信男のダメ社員っぷりが可笑しく読んでいたのだが、次第に信男の仕事に対する意識に変化が生じ人間として成長していく姿に焦点が移ってゆき、心が熱くなった。最初はバブリーで軽薄な代理店の会話に辟易していたのだが、しだいに信男の人生観や恋愛観が語られるようになり物語が深化して惹き込まれた。信男のたまさかなビジネスの成功は、小説では手垢が付いた経緯なのだが、彼が携わる『イジメ撲滅キャンペーン』への想いが良い。ここは作者が心血を注いだシーンだと思う。
この小説の骨子は身分制度を会社社会に適用してみたらどうなるか、という切り口だったが、今の時代、身分で差別することは物笑いの種だろうが、”能力”で差別することを完全否定する術を私は持ち合わせていない。『種の保存本能』などに起因する容姿や能力で人間を差別することは、この社会で”互いに手を携えて”生きていく金科玉条に反するはずなのだが、所詮、この世は”弱肉強食”って諦念も捨てきれないでいる。だが、この小説を読んでみるとそれに対する一つの答えが書いてあるような気がした。人と比較することでしか自分の価値が分からない人には是非とも本書を読んで欲しい。「オンリー・ワン」の持つ意味の大切さを知る一助になるはずだ。
もう一言いえば、この小説は能力で人間を差別することへの疑問を一石投じているのだけど、生きるってことは自分のあるかもしれない可能性のあくなき探求なのだと読んでいて思った。
3/31 TBSにて21時よりこのドラマが放映されるのだが、楽しみに待っている。
追記:ドラマを見たが政権与党が役人に作らせた法案のように、骨抜きの内容になっていた。小説はドラマと違い芯のある物語なので、匙を投げずに読んでいただけたら、もっけの幸いである。