街道をゆくシリーズは単なる現代の地理的な紀行文ではなく、過去を遡る時間の旅でもあるのが魅力だが、本作も例外ではない。
阿波と紀ノ川流域を扱った本巻も、紀伊水道の両側の地域の旅にとどまらず、過去に向けられた視線が共通しており、それが面白い。視線の先にあるのは室町後期・戦国・安土桃山時代。
室町後期・戦国時代に阿波を本拠にした細川・三好氏が京都を支配したし、信長・秀吉の全国統一に際して雑賀衆や根来寺は忘れてはいけない存在だ。そういう意味で、本巻は室町後期・戦国・安土桃山時代をスライスしてその一断面を提示する著者の意図で貫かれていると思う。例えば阿波弁が京都弁に影響を与えたかもしれないと考えるのは著者ならではだろう。
現代の大鳴門橋を渡って四国に渡る前に淡路島の数奇な歴史も振り返る。まさに歴史と現代の地理を縦横に駆け巡る著者の面目躍如の一冊だ。