本書では、中国の歴史の舞台となった蜀のみちが面白い。
まず、戦国時代。秦が蜀を食糧基地にして中国統一の足がかりとした土木工事の跡、都江堰を訪れる。著者は地形の描写が巧みだが、本書では図も添えて、工事がどのように行われ、それが蜀の地にどれだけの恵みをもたらしたかを詳しく述べる。都江堰は名前だけはよく聞くが、その構造を詳しく解説してくれるのは有難い。
次に三国志の時代。特に孔明を祀った武侯祠を、杜甫の名詩・蜀相を思い浮かべながら訪問する章が本書のハイライトだろう。この章に限らず、数章を費やして孔明とその政治について論じており、著者の三国志観を知ることができて興味深い。要するに孔明は三国鼎立を実現した「時勢のなかの芸術的作者」であり、北伐不成功をもって軍事的才能を云々するより、蜀漢帝国を保たせた驚きを、正史の著者・陳寿は持つべきだったとする。私も同意見だ。
そして唐の時代。杜甫がその人生で穏やかな生活を営んだ浣花渓を訪れる。もちろん杜甫の詩を引用するのだが、著者の漢詩への造詣の深さが披露される。
歴史と詩の舞台、蜀への旅は有意義だったに違いない。