スターリングはやはり、対抗文化の人なのだと思う。
それは、最初の「巣」にある知性について取り扱いを見れば即わかる。
欧米の主知主義的伝統に対するアンチテーゼをこれだけ明確に出しているSF作品は
非常に珍しいのではないだろうか。SFというよりは、
むしろ反SF的な作品ではないだろうか。
私が今まで読んだSFの中で主知主義を明確に相対化しているのは
スタニワフ・レムくらいなものだ。ただ、レムが哲学的思索なのに対して
スターリングは政治的な思索であるような感じがする。
そして彼の考え方は正しいと思う。
世の中、相変わらず'情報'というお化けに振り回されているが、
現実に対する情報優位という考え方はどこかで是正されなければならないと思う。
続く火星のテラフォーミングに関する短編は、これは記号に基づく現代資本主義社会
の戯画であるような感じがする。そして市場社会の経済的繁栄の永続よりも
火星のテラフォーミングという物質的な現実を創造していく方が重要であるという
言い切りは、非常に胸がすく思いがする。
こういうスターリングの基本的な考え方は実に素晴らしいと思う。