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幕末から明治初頭にかけて、政商として活躍した藤田傳三郎と、彼の忠実な“影”として生きた“とんぼ”宇三郎、このふたりの運命が交錯し、変転する様を描き出して行く話である。長州藩の萩で暮らしていた頃は、傳三郎が“主”で、宇三郎は“従”でしかなかった。しかし、傳三郎が時代の大きなうねりのなかで翻弄され、深刻な挫折を経験するうちに、宇三郎の存在が次第に増してくる。傳三郎を心から慕う宇三郎が“影”としての呪縛から次第に解き放たれていくところ、そこに話の一番の妙味を感じた。
歴史上の人物が、実名で出てくるところにも興味を惹かれた。幕末に長州藩で奇兵隊を組織するなどして活躍した高杉晋作、明治初頭に起きた「尾去沢銅山払い下げ汚職事件」で悪名を馳せた井上馨のふたりの人物の描写が印象的。とは言え、本書でスポットライトが当たっていたのは藤田傳三郎であり、それ以上の輝きを持って描き出されていたのは、傳三郎の“影”として生きた宇三郎であったと思う。
宿命的な繋がりを持って、幕末から明治にかけての激動の時代を生きたふたりの男の物語『蜻蛉始末』。ぐいと心を掴んで引き込んでいく小説の力があり、存分の読みごたえを感じた。
明治の実際の事件、藤田組贋札事件を素材にした歴史小説。そこに自由な推理の翼を広げる。明治期に活躍した人々が一個の個人として、躍動感を持って動き出す。
そんな中でトンボの思った「食われてしもうたんじゃ」という言葉は、作品全体を象徴するようでとても面白い。
光と影が幾重にも重なり合い、それぞれの人間模様を照らし出す。
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