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蜩の声 [単行本]

古井 由吉
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商品の説明

内容説明

現代文学の到達点。古井由吉の世界    日々の移ろいのなか、おぼろげに浮かんでくるのは、男と女、今は亡き人達の思い出、戦時下の風景──。時空を超越し、生と死のあわいに浮かぶ、世相の実相。

内容(「BOOK」データベースより)

対極のあわいを往還しながら到達するさらなる高み―。記憶の重層から滴る生の消息。震災をはさんで書き継がれた言葉の圧倒的密度。古井文学の現在を示す最新小説集。

登録情報

  • 単行本: 258ページ
  • 出版社: 講談社 (2011/10/28)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4062172968
  • ISBN-13: 978-4062172967
  • 発売日: 2011/10/28
  • 商品の寸法: 19 x 13.2 x 2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 5.0  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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現代の日本文学において秀異な古井由吉氏の作品を生み出しているのは、ひとえに老翁の明視と老健でしょうか。

古井氏の作品を読んでいると、官能が澄んでくるのが分かり、これまで己の官能が鈍磨していたことを思い知らされます。五官が捉えていた表層に覆われ隠れていたものに思いを致すようになり、更には思考も澄んできます。
古井氏の作品は過去に内向との誹りを受け、現在でも首を傾げる向きがあるかもしれませんが、その作品は決して内を向いたきりのものではありません。内への強靭な志向は否定できませんが、それを非難することはできないでしょう。内向が極まれば外が開かれはしないでしょうか。
自身の官能による受容とそれを巡る思考の独白とも随筆ともつかぬ叙述。時間的にも空間的にも限られたささやかな物語。その間の一読唐突とも読める往来は、小説の埒外へと逸脱しているように思う向きもあるでしょうが、物語の表層を剥いだ後の、感情や思考さえもが表層でしかない底流で通じ響き合っています。物語を幾何学的に捉えることを止めさえすれば、大きく開かれた官能と自由闊達且つ厳密な思考によって織り成された物語と言えるでしょう。その場では生と死、男と女、過去と現在、あらゆる境域で互いが混じり合い、汽水湖のような鎮まりのなかで睦みが交わされています。
そして本書中最も注目すべきは、末尾の「子供の行方」でしょうか。戦時の悲愴の記憶は、官能にその跡を遺して筆者を苦しめます。思考による記憶は対象化によって恐怖の度を抑えられていても、官能にこびりついた記憶は内に闖入して恐怖の度が抑えられることがありません。老いるに従い、官能の記憶は強度を減じますが、記憶の静まりから恐怖は変わらず膨らんできます。筆者は燥いで忘却を決め込むことなく、常に絶えず恐怖の記憶を語っていくことを自らに課すのです。老いてなお、と言うよりも老いてこその作家の姿勢には心を打たれます。
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力技ですねえ 2012/2/14
デビューから30年は作品を追いかけ、ここ10年お休みし(読むエネルギーが枯渇してました)、前作から読者に戻りましたが、脳の機能が弱い私としては正直なところ読むのが疲れます。なかなか進みません。

しかし、この人以外にはできないと思われることばを扱う技(技が思想に昇華されてる?)にはただただ感心するばかりです。物語(?)の時間の飛躍やペースアップ、ペースダウンすべてことばによる力技です。読んでいると私たちが生きている世界の足下が揺らぎます。ご本人はそんな大それたことは考えていらっしゃらないでしょうが、このことば世界を変革する力があります。

第一次戦後派の作家たちに始まり、戦後文学といわれる政治的立場が鮮明な作品を発表していた人たちの多くが亡くなり、それを継承した人たちの作品の多くが次第に精彩を失ったり、方向性を変えたりした現在、「内向の世代」と呼ばれ、ある意味肩身の狭い立ち位置にあった作家の一人が今日本で最もラディカルな作品を発表し続けているのは興味深い現象です。その事実は単純にことばの力を信じさせてくれます。

その昔、アメリカ暮らしをしていたとき、時折同じ condo の友人やつれあいの同僚など(もちろんみんなアメリカ人です)にホームパーティーに招かれると、けっこう日本文学通が多くて、たじたじだったりすることがありましたが、今思うと古井由吉が話題になることはありませんでした。翻訳がほとんど出てないのですね。いや確かに古井作品を他の言語に移そうとする勇気のある人はいないでしょうねえ。
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