たまたまこの本の中に所収されている「休暇」が映画化され、まもなく公開されると言うことで手にしましたが、読み始めると9編の短編に引き込まれてしまいました。
どの作品にも共通するのは、主人公の不自由な状況からの鋭い観察眼と、「死」の匂い、そして微妙な余韻を残すラストです。
冒頭の作品は「休暇」で、主人公は刑務所の看守で、彼はその職業故に縁の無かった結婚にようやくたどり着きます。そして、親族の死で有給休暇を使い切っていたために、死刑執行人としての勤めに志願し、特別休暇を得て新婚旅行に行きます。そこでの、彼のぎこちない態度が丁寧に描写されています。
表題作の「蛍」は、親戚の子どもの「死」、しかもそれに死んだ子どもの兄弟が関係していそうだという状況に主人公が立ち会います。そして、その残った男の子に対する細かな観察が始まります。しかし、彼はそこからの一歩は踏み出せません。
9編の中でこの二編の他で気に入ったのは、「霧の坂」です。病気療養中の主人公が、その宿で働く女中を観察し、その主人を観察します。結局、この女性は子どもと一緒に自殺するのですが、彼は結局傍観者の位置から踏み出せません。
どの作品も素晴らしいのですが、漠然とした結末は、その後がどうなるかもありますが、読者に、主人公たちと同様、傍観者で終始してしまうのではないですかと問われているようです。