戦後の時代、大阪にある安治川と呼ばれる泥の川を舞台にそこのまわりに暮らす人々の人間模様が描かれているのが太宰治賞を取った「泥の河」です。その川には、泥のなかから沙蚕を採る老人がいたかと思えば、いろんな物が流れて来る、台風の後は、窓枠といっしょに額縁つきの油絵や木製の置物なども流れて来る、それを子供達は拾うのが楽しみだったとか。時にはへその緒のついたままの赤ん坊の死体が流れて来たり。そこには生と死がごちゃまぜになって、戦後の川縁の情景がそのまま読者に迫ってきます.その中で川縁に大らかで仲の良い両親が経営する食堂の子、小学2年生の信夫は、新しくその川に越して来た郭舟に母と姉と暮らす喜一と、とっても仲良しになります。この無邪気なふたりの少年、今の時代にない、見たもの聞いたものをそのまま何の余念もなく受け入れる全く清廉で純粋な可愛い少年たち、決定的に異なるのは、喜一のお母さんが娼婦であるという事。宮本輝の大きなテーマである、残酷な「この世の不公平」は、ふたりの純粋性を砕きます。宿命的な「この世の不公平」に対するもどかしさに苛立ちながら、このふたりの天真爛漫な子供達を中心に、川縁に繰り広げられるさまざまな描写には何ともやるせない気持ちでいっぱいになり、読んだあとは、ため息がでます。太宰賞を取った数ある作品の中でも私は一番の名作だと思います。