前篇の「蝿の帝国」と合わせると相当な量ですが、一般書で軍医の組織、勤務(従軍)状況がここまで描かれた本は記憶にありません。実体験として語れる年齢の方は90歳を超えつつあり、完全な過去になる前にまとめ、悲惨な過去を風化させないことは重要でしょう。今年、震災で災害医療が注目されましたが、戦場での診療は災害医療の一つの極北です(英文の災害医療教科書では当然のように戦時医療とテロ対応が載っています)。この本の各挿話のようなことを繰り返さないために、特に医療関係者では震災時の実体験に引き寄せて考える読み方も想像力としてはありうるかもしれません。
なお、現在でも一部国立病院や公的病院には旧軍所管病院が起源のところがあります。現役勤務医も一読して損はないでしょう。やや専門的ですが、実戦を知らない大部分の現役医師向けに、旧軍医療の組織体系が概説されてもよかったかもしれません。この作家の筆力をもってすれば、役得と理不尽さを公平に俯瞰して頂ける気がします。