こういう異色の古典が岩波文庫に入るのは大いに結構だ。しかし、本書に5年も先立って既に存在しているありな書房版はもちろん、ヴァールブルクとその学派に関して日本語で読みうる少なからぬ文献に対し、なんらの言及も案内もないのはどうしたことであろう。既訳に批判があれば、挙げたうえで示すべきであるし、文庫という形態上、初学者がまず本書を手に取る可能性が高いのだから、親切な文献案内が付されてしかるべきである。横のものを縦にしてこと足れりでは、創刊の精神が泣くというものだ。それに、たとえば上山安敏や生松敬三の著作に道筋を付けてやれば、自社本の宣伝にもなるのに、工夫がないね。
訳者の三島氏は優れたニーチェ学者であり、ドイツ思想の啓蒙家ではあるが、はたしてヴァールブルクまで手を広げる必要があったのかどうか。解説に卓見があるわけではないし、逆に美術史がらみの言及はかなりあやふやとも言えるほどだ。狭義の専門家だけが翻訳すべきだとか、狭量なことを言うつもりはまったくないが、三島氏が、それなりに様子がわかるといった軽い動機でこの翻訳を引き受けたとしたら、いささか軽率であったと言わざるをえない。