小学校の教師をしている明智倫子は同僚の鎌田とつきあっている。自分の両親と祖父に引き合わせると、その気さくな家庭を鎌田もすっかり気に入ったようだ。しかし、祖父は痴呆症、父も実はある問題を家族に隠していた。そしてそこへ、十年前に勘当された兄・周治が舞い戻ったことから、家族の崩壊が加速していく…。
丹精こめて作った秀作映画といえます。イイカゲンを絵に描いたような兄、問題を前にあたふたと醜態をさらすばかりの父、我慢に我慢を重ねてきたと言う母、生真面目で正義感の塊のような妹。こうした登場人物の一筋縄ではいかない心のひだを、各出演陣が見事に表現しきっています。
またこうした作品には珍しくショット数が多いようです。畳の間やダイニングで登場人物たちが会話をかわす場面では、ひとセリフごとに切り返しのショットを重ねてテンポをつけ、場面全体が平板にならないように工夫されています。先に書いたように各登場人物の表情が見せ所であるだけに、ワンショットの顔の映像を丁寧につないでいくというこだわりの演出です。当然撮影時間数も増えるはず。その丹念な作業が忍ばれる作品に仕上がっています。
そしてなんといっても脚本が素晴らしい。一見何気ないやりとりが物語全体に大きな意味をもっているという場合がそこかしこに見られます。例えば倫子が教室でひとりの男子生徒を戒める場面。最後に女子生徒がボソリと倫子に訊ねる言葉は、ボディブローのように効いてきます。
家族は取り替えがききません。どんなにインチキでだらしなくても、切り離すことなど出来ないのです。
ラストシーンの解釈は見る者により様々でしょう。私はそこに、あの女子生徒が言っていたように、一見嘘にしかみえない誰かの言葉をほんの少し信じてみるところから始めると、きっと肯定的な何かが生まれることもあるのではないか、そんなメッセージを見つけた気がします。