科学が持つ効し難い魅力「Sense of Wonder」の解明について様々な分野を題材に縦横に語った改著。虹の分光の仕組みをニュートンが解明した事に対して、詩人キーツが「虹の持つ詩情を破壊した」との苦言を呈した類いの科学批判・懐疑に反駁する立場で書かれたもので、題名もそれに由来している。
ドーキンスは詩的なものが嫌いな訳ではなく、むしろ愛しており、科学的相関のない事象に詩的関係を求める姿勢を糾弾しているのである。それを、上記の科学批判・懐疑派や一般読者に説明するため多くの筆を割いている。専門の生物学・進化論だけではなく、量子論を初めとする物理学、宇宙論、ゲノム問題、脳科学、認知心理学、数学、音楽、裁判制度など幅広い分野において、科学が真の詩的魅力を引き出す様を描いている。逆に、科学に対する無知・誤解、あるいは偽科学によって金儲けを企む輩への憤りも良く出ている。ドーキンスの該博な知識には驚くが、各々のエピソードは語り口の巧さも手伝って読む者を惹き付ける。特に"ペトワック"の概念は面白い。また、フラウンホーファー線やバーコードをDNAのメタファーとして扱っている点も"らしい"印象を受ける。「個人攻撃ではない」、と断った上で論敵のグールド批判を展開する辺りも読み所である。明らかに他の箇所より熱が込められている。そして、自身がダーウィンの正統後継者たる矜持がヒシヒシと伝わってくる。「利己的遺伝子」を別の角度から論じた第9章は秀逸。第10章の「死者の書」の内容も興味深いし、カッコウをモデルにしたレトリックも冴えている。共進化と共適応の概念も初めて知った。最終章も興奮を掻き立てる。
科学の啓蒙書であると共に読み物として面白い。進化論のみならず科学全般に対する興味を惹起させてくれる魅力的な書と言える。