実は第2作品集『25時のバカンス』をきっかけに、市川さんの作品と出会いました。それから『虫と歌』を読むという、逆の入り方をしました。どの作品にも、独特の不思議な世界観と、女性ならではの繊細さがあり、「人」と「人でないもの」の交流をテーマにしています。
『虫と歌』に収録された作品は、そうしたテーマを「兄妹」という視点に絞って描いたものが多いと感じました。
「星の恋人」:主人公の少年の「指」から生まれた妹との不思議な兄妹愛。
「ヴァイオライト」:飛行機事故で奇跡的に助かった若者・未来。記憶を失った彼の傍らにいた謎の若者・すみれの正体は・・・。
「日下兄妹」:肩の故障で野球部を離れた日下雪輝。あるときタンスから外れた金具が突然不思議な成長を始めて、人形のような生命体に・・・。
「虫と歌」:3人の兄妹が暮らす家に闖入してきた「虫」。それは「弟」でもあった。奇妙な共同生活の中で明かされる、兄妹のある秘密とは。
市川さんは、北海道在住の、現役グラフィックデザイナーだそうです。『虫と歌』『25時のバカンス』の装丁も、ご自身でデザイン。
作品の魅力に関しては、他のレビュアーの方々がすでに多くの賞賛を寄せているので、ぜひそちらをご覧下さい。
ところで、東京・渋谷のPARCO内にある書店、リブロ渋谷店では、「著名人の本棚」という小さな名物コーナーがあり、作家や文化人の方の創作・活動のルーツともなった愛読書を紹介・販売しています。そして'11年10月現在、「市川春子さんの本棚」が設けられています。
地方に在住の、市川さんのファンの方は喉から手が出るほど見たい企画なのではと思い、コーナーで配布されているフリーペーパーをもとに、おせっかいながら一部を紹介したいと思います。
情報量が多くなってしまうため、出版社は基本的に割愛することをご了承下さい。
また【】内は市川さんご自身のコメントです。
【25時書房へようこそ。おもえば私の読書遍歴は、ひとつの本から辿ってどんどん広がっていくものでした。中でも日記、随筆、手紙、思想など、自分だけの内奥を探っていたら宇宙と繋がってた、そんな気持ちにさせてくれるものを選んでみました。どうぞよろしく。】
澁澤龍彦「玩具草紙」「胡桃の中の世界」「高丘親王航海記」「少女コレクション序説」「フローラ逍遥」「旅の仲間 澁澤龍彦/堀内誠一往復書簡」
【本は面白いかも、と思わせてくれたのはこのお方でした。真面目でフラット、膨大な知識を蔵しながらも空想に遊び、純と淫の錬金術を楽しみ、好みにうるさく無邪気。私の考えるかっこいい大人像です。】
ジョルジュ・バタイユ「エロティシズム」「文学と悪」「マダムエドワルダ/目玉の話」
【禁忌と侵犯についてがおもしろいなーと思って何度も読みました。基本的に難解なので、何度も話を聞いているうちに好きになってしまうかんじです。】
ほか、文学系では:カフカ「審判」「変身/断食芸人」、ゲーテ「ファウスト」「若きウェルテルの悩み」、ジャン・コクトー「恐るべき子供たち」など。
宮沢賢治「銀河鉄道の夜」、トーベ・ヤンソン「ムーミンパパ海へゆく」、稲垣足穂「一千一秒物語」あたりは、ファンの方は「やっぱり!」とお思いでは。
ジュール・ルナール「博物誌」【観察することが表現の根の部分なのかもと思わせてくれます。】
原田敏明・高橋貢「日本霊異記」【神様のお恵みはちょっとえっち。】
高馬三良「山海経」【キメラ好き集まれ!】
漫画では:
杉浦日向子「百物語」「百日紅」【何度でも読みたくなる人間と異端の息づかい。構成の力強さはこの世の物とは思えない。】
高野文子「棒がいっぽん」収録の「奥村さんのお茄子」【何度読んでも発見があります。】
永井豪「デビルマン」【混乱して震え上がった漫画。】
黒田硫黄「大日本天狗党絵詞」【気高い喧騒と清々しい黒がいつまでも心に残ります。】
ほか、横山裕一「ベビーブーム」「NIWA」、いがらしみきお「ぼのぼの」、しりあがり寿「真夜中の弥次さん喜多さん」など
美術書・図鑑関係:
尾形光琳「光琳図案」【実に簡単そうにかわいく描くと言うのは本当にすごいですね。】
葛飾北斎「北斎漫画」(青幻舎)【実に簡単そうに楽しそうに描くと言うのは本当にかっこいいですね。】
田中一村「田中一村作品集」【誠実が実を付けるとこうなるのでは。】
地球自然ハンドブック「宝石の写真図鑑」「昆虫の写真図鑑」「貝の写真図鑑」(日本ヴォーグ社)【自然のあてのない美しさを見るとほっとします。】
エルンスト・ヘッケル「生物の驚異的な形」【生命の計算され尽くした規則性を見てもほっとします。】
織田憲嗣「ハンス・ウェグナーの椅子100」【歩き出しそうな滑らかさ。】
など
個人的には「ハンス・ウェグナー」が興味深かったです。やっぱりデザイナーさんなんですね。
「市川春子さんの本棚」の内容の一部を転載したことに関しては、
1)料金を払って入場する展示物ではないこと
2)このもとになったのが「フリーペーパー」であること
3)上記内容の記載は、市川春子さんの知的財産を侵害する行為ではないこと
4)都内近郊以外に住むファンの方々に有益と思える、ということ
を筆者なりに考慮・判断した上での転載です。
ただ、正式な許諾を得ての記載ではなく、ご本人、及びリブロご担当に於かれては見解の異なることも考えられますので、問題のある場合はコメント欄にご一報下されば、削除いたします。
尚、筆者が『虫と歌』を購入したのは、リブロ渋谷店であり、常連客である事も書き添えておきます。
ご寛容頂ければ幸いです。