筒井康隆という作家ほど幅広いジャンルに手を出し、そして読者の人気を獲得し、高い評価を受けている作家も珍しい。SF、コメディー、純文学、ミステリー、ジュブナイル……、それぞれに代表作を持っており、尋常ではない質の高さを誇っているからだ。今のところ、評価は賛否両論であるが、後の世で日本文学の中でも「異彩を放つ奇才」として歴史に名を残すだろう。
そのような筒井康隆の作品の中でも『虚航船団』は異常である。高い知性と狂気が尋常ではない高さで均衡しているからだ。
世界史を明らかに意識した展開で鼬族と文房具(!)の終末戦争を描き、しかも表現において実験的要素を全力投球で投げ込んでいる。この作品までの筒井康隆の濃厚なエッセンスが凝縮されている、といえるだろう。<P!>おそらく、本を読み慣れていない読者(特に実験的な純文学を読んでいない人間)は途中で投げ出すはずだ。読者を選ぶ作品だから当然である。スライムで苦戦するような人間がゾーマと戦えるはずがないのだ。
ディープに文学に陶酔している玄人の読者および筒井康隆の心底敬服している人間にこの作品を勧めたいと思う。