宇宙の各拠点に突然出没しては姿を消す謎の人物の正体と目的についての驚くべき真相を描く大長編SFスペース・オペラ宇宙英雄ローダン・シリーズ第405巻。本巻の執筆者は手慣れた設定を離れて新境地の物語に挑むクナイフェルとフォルツです。ここ暫らくローダン率いる精鋭ミュータント部隊の活躍する物語が続いておりましたが、ようやく前巻でひとまずの区切りがつきまして、やや重苦しく感じられ出した所でしたので気分転換の意味からも新たな物語のスタートには絶好のタイミングだったのではないかと思います。
『虚無からの再生』ハンス・クナイフェル著:時に3583年、銀河イーストサイドにある嘗ての人類とブルー族の交流基地の太陽系帝国リレー・ステーションにエンジニアのチョン・ローが現れる。やがて彼は自分が全ての記憶を失っている事に気づくと共に七人の精神を宿す共有体と化した事実を知る。本編では七人格者を人間と認めないポジトロニククスと敵対する破目になった共有体が、それぞれの危機の状況に応じて最適な人格を選択して対処し生き残る必死のサバイバル・ドラマが素晴らしいです。そして圧巻は惑星ウィルグラーで偶然出逢った娘トビーと一人格の生物学者ケラスニーとの恋愛ドラマで、幸福な結末とは呼べませんが不幸ではなく心が不思議に爽やかな余韻に包まれます。このエピソードはローダン物の一編でなくても立派に通用するロマンチックSFの良作だと思います。『コンセプト登場』ウィリアム・フォルツ著: 超越知性体‘それ’の支配する宙域を漂う人口小惑星上に現われた二人の使者ワストルとクラモウスが、惑星の創造者‘去りし人々’の帰還を待つ護衛者の一人に‘それ’の意向を伝える。まもなく出現する七人の精神を宿す共有体コンセプトの実験をこの惑星で行う予定だと。本編では‘それ’の人類の精神と肉体を分離するという大胆な発想の方法に度肝を抜かれまして、殊に肉体のみが大量に保管されている光景を想像すると不気味な気持ちになります。今回のコンセプトは最初から七人に‘それ’の意図が知らされていまして、メンバーの中に女性二人に子供にアルコール中毒者が居て決してチームワークが良いとは言えませんが、全員が元の境遇に戻されるよりはましと我慢して必死にがんばった成果と言えるラストの笑えるオチにホッと安堵し気分が明るくなります。
本巻の翻訳者、林啓子氏のあとがきはご自身が今年の8月初旬に挑まれるアマチュア・ピアノ・コンクール関東地区大会の課題曲に選ぶ程にお好きな二人の音楽家リストとショパンの知られざる意外なエピソードについて紹介されています。次巻からは故郷銀河でアトランの留守を預かる新アインシュタイン帝国のジュリアン・ティフラーを中心とする物語が再開される模様で、長年に渡り優位を誇って来た公会議勢力の中心ラール人に一矢報いる事が出来るのか、本格的に自ら宇宙秩序の回復に乗り出した‘それ’の戦略と共に大いなる可能性を秘めたコンセプトの活躍に期待しましょう。