日本はおかしなことだらけになった。
その最たるものを描いたのがこの本である。
国民のまっとうに生きる権利を奪ったものは、病気であろうとなかろうと等しく裁かれるべきである。
ところが、昨今の殺戮者たちのほとんどが簡単に弱者扱いされ、刑を免れ社会に戻ってくる。
この物語はある意味架空の話ではない。
誰にでも起こりうる恐ろしい災厄であり、もし被害者になったら誰でもこの母親のような塗炭の苦しみの中に放り出されるのだ。
あるいは、家族の誰かが、親族が、もしかしたら自分がこの犯人とおなじ加害者となる日を迎えるかもしれないのだ。
配慮を欠いた刑法が放置されているのは司法の怠慢であり、こうしたことに及び腰のマスコミや国の態度を物語は明快に責めてゆく。
物語は半ばでやや中だるみになる。
風俗に勤める少女の設定に少し違和感を感じる。
だが、一人娘を殺された母親が人生を引き換えにして犯人を追う痛ましさがそれを補ってあまりある。
国も司法も医者もマスコミも夫でさえ頼みにならず、たった一人で娘の命を奪った男にふさわしい罰を与えるために命をかける母親の姿はあまりにも痛ましい。
いとしい娘を失った母親の至極まっとうな思いを愚かしいとは言えまい。
物語は精神の病で苦しむ側の苦悩も同時に描いている。
そちら側の苦しみも存在する以上、人は行いを等しく裁かれるべきで、一方だけを放免するのは新たな苦しみの連鎖を生んでゆくだけだ。
この難しいテーマをごく普通の人の視点でわかりやすく描いたことがこの本の成功につながっている。
読みやすいのでいろいろな人に読んでもらいたい。