山田風太郎のミステリー傑作集。山風入門編に編んだ作品集ということで粒ぞろいの小品を集めてます。が、小品といっても侮るなかれ。氏の代表作でベストセラーにもなった忍法帖シリーズにも共通する奇想が詰まってます。
以下簡単に雑感。
「眼中の悪魔」。
医師の弟から兄へ、手紙の形を借りて綴る恐ろしき計画犯罪。
遺書であり告解であり告発。文字通り盲点を突いた話。
彼のしたことは暗示か殺人教唆か。
自分の手は一切汚さず憎むべき者を破滅に追いやった男を待ち受ける非業の末路とは。
医学的知識がなければ解けないトリックより痴情の縺れを起点とする心理の倒錯を楽しみたいところ。
「虚像淫楽」。
過去、自分のもとで働いていた看護婦が自殺未遂の急患として運ばれてきた。
治療にあたった医師の千明は、その全身に鞭打たれたあとだろう無数のみみず腫れを発見し……
夫と妻、どちらがマゾでサドなのか。兄嫁を慕う紅顔の美少年をも巻き込んだ倒錯性愛の極北。
「厨子家の悪霊」
横溝正史か江戸川乱歩か、深い雪に閉ざされた地方の豪家で起きた凄惨な殺人事件ははたして片目の悪霊の祟りなのか?
どんでん返しに次ぐどんでん返しで目が廻る。厨子家の後妻を惨殺した真犯人はだれだ?
策に溺れた犯人を待ち受けるのは皮肉な運命であった。
「蝋人」
被害者に同情できない。
「黒衣の聖母」
天使のような悪魔がいるなら聖母のような悪女もいるわけでして。
そして娼婦が聖母だったりするんだなこれが。
「恋罪」
駆け出し小説家のもとにかつての旧友から届いた手紙にしるされた驚くべき内容とは。
山田風太郎はどうやらサドマゾ嗜好に興味があるご様子で、「虚像淫楽」に引き続きこちらも夫婦間の倒錯した性生活に焦点を当てている。それを目撃した男の悲劇。山田風太郎への手紙の形式をとって綴られるのだが、作者への呼びかけに透けて見える屈折した羨望や憧れに萌えてしまった。
「死者の呼び声」
騙すものは騙されるもの、殺されるものは殺したもの。二重三重の傀儡悲喜劇。あえて無関係な第三者を冒頭の語り手に指定する導入部が上手い。
「封筒の中の探偵小説」「封筒の中の封筒の中の探偵小説」というサブタイトルの仕掛けが憎い。
話が入れ子細工になっているので次第に虚実の境が曖昧になってくる。
「さようなら」
これもまた愛の形。警察はやっぱ身内殺しに厳しいのか。
「黄色い下宿人」
ホームズパスティッシュの傑作。本家では言及されるだけで終わる事件を扱って読者を納得させるだけの説得力をもたせるのもすごい。ドイルの訳文を意識してるのか、文章もまた本家と比較して遜色ない。
原作のホームズはつんと澄ました、見ようによってはやな奴なんですが(そこが素敵)山田風太郎のホームズは愛嬌があって憎めない。
しかしかの名探偵ホームズが一杯食わされる話でもあるので、本家ホームズファンの中には怒る人もいるかも。
謎の日本人留学生・棗の正体にも注目。