テレビ番組の作り手の視点から見た政治、社会、行政という設定。実際にあった宗教団体の弁護士一家殺害事件や某戦闘地域での邦人人質事件等を彷彿とさせる出来事をネタに話が進む。著者は大手新聞社記者出身という経歴のせいか、メディアの「正義」にどうも甘い。この小説を読むと、「現代社会で最も権力を有するのは結局メディアなのか?」という諦めとも絶望ともつかない思いにかられる。
政治家や大金持ちも個人、社長や次官もポストに過ぎず、いわば、期限付きの権力者だ。しかも所属と氏名、顔という個人性を表面に出した権力者だ。それに比べてメディアは、顔のない組織が、現代では最も威力を発する情報操作という「権力」で人の心や社会のシステムを動かしていく。その中にあって、マスコミ人が勘違いしてしまうのもむべなるかな。
メディアの報道は、所詮、つくりものだ。記者が取材した時点で既に「事実」は二次情報になり、視聴者や読者に届く頃には、無限のフィルターを通過し、しかも映像もコメントも切り貼り。今更と思いつつも、「報道」の必要性を考えてしまう。
この小説の中で、唯一救いなのは、バラエティ番組プロデューサーの「笑いを届けたい」という真摯な思いだ。案外、テレビ局の存在意義の本質は、今の世の中、バラエティやドラマという、完全な作り物にあるのかもしれない。