佐藤亜紀が絶賛していたので読んでみたが、想像を遥かに凌ぐ傑作だった。何よりもこれほどの知識と技術を兼ね備えた作家が日本に存在していたことに驚嘆した。テロを掃討した先進国と虐殺の急増した後進国という近未来が舞台だが、それは現代社会の延長線上にあるものとしてのリアリティを獲得している。むしろ、本書は現代世界に生きる我々に肉迫したものですらあるのだ。ところで読者によっては、主人公の未熟な陰鬱さ、某漫画のパロディ、エピローグなどに対する賛否もあるらしいが、評価を下げるには至らない。それどころか、本書の魅力の1つとして、読後、「彼自身が侵されていたのではないか」という疑念が涌いてくることも挙げられよう。その筆力の凄まじさは宮部みゆき、伊坂幸太郎などの激賞にも覗える。余りにも稀有な才能を失ったこと、著者の夭折が惜しまれる。
追記:2000年代のSFは傑作『グラン・ヴァカンス』の飛浩隆、『Self-Reference ENGINE』で伊藤計劃と共に驚異的デビューを果たした円城塔など、素晴らしい小説家がまだまだ存在する。しかし、それでも伊藤計劃が超新星のような煌きを放っていたことは間違いないだろう。にしても、飛浩隆&円城塔の共作で遺作『屍者の帝国』が完成されないだろうか。この2人なら伊藤計劃も間違いなく満足するだろうに。追々記:…と思ったら、完成させてくれるらしい。