大阪府岸和田市で15歳の少年が養育放棄により餓死寸前となった事件を追ったルポ。
同じ児童虐待をテーマにした優れたルポに杉山春『ネグレクト』があるが、
そちらが加害者の生育歴や内面を丁寧に辿っているのに対し
この本はどちらかというと加害者の行動や状況に重点を置いた趣がある。
父親が仕事に追われゆとりをもてず、
母親が巷にあふれる「よき母親」イメージに振り回され、
父親の男尊女卑的な価値観を地域社会が矯正できなかった様子が浮き彫りにされているのは
そういうスタンスがプラスに作用しているからだろう。
児童相談所と学校の認識の食い違いや取調べの拙速さが指摘されている点でも
児童虐待を考える上で貴重な本だと思う。
個人的には杉山春『ネグレクト』のスタンスが好みだが。
「しかし、彼らのように極端な言葉を口にすることはなくても、
同様に考える人は少なくない。また結婚後の女性が『よい母親』になることは、
社会の要請でもある。つまり実父と義母は、社会が求めている『父親』像と『母親』像を
カリカチュアして見せただけのことなのだ」─あとがきで著者はこう述べる。
「男は仕事、女は家庭」「強い父親、優しい母親」というステレオタイプのことだ。
この「古臭いなりに健全な姿」と見えるかもしれないイメージが実はどれほどグロテスクか、
児童虐待を考える上で一度は見直す必要があるだろう。
それを明確に示したという意味でも貴重な一冊。