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21 人中、18人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
実在した「蘭陵王」の物語,
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レビュー対象商品: 蘭陵王 (単行本)
「蘭陵王」。舞楽をイメージされる人も多いかと思います。 実は、6世紀中国に生きた北方の国の武将です 舞楽や管弦でこの名がついた演目は、 彼をモデルとしてつくられたものばかりです。 彼の容貌はあまりにも美しすぎました。 よって、味方からは士気が下がるほど惚れられ、 敵には心底侮られるために、わざと鬼面をつけ、戦にでたといわれています。 常勝の闘将、忠義に厚い好人物、高貴な身分(皇族)であったのにも関わらず、 時の権力者の嫉妬や政治的な圧力をうけ、若くして非業の死をとげます。 そんな“伝説”に事欠かない人物。 田中氏は他の作品中でも彼の名をだすなど、かなり気にしていた様子だから、 いつか描かないのかなあ、と思っていたらこのたび、しっかりと作品にしてきましたね。 「おお、ようやく!」と納得してしまいました。 田中氏ならではの硬派で迫力ある筆致を伴い、魅力的な物語として迫ってきます。 蘭陵王・高長恭が生きた時代は、中国史を専攻した姉にいわせれば 「戦乱のなかの戦乱。混乱のなかの混乱。血で血を洗うとはまさにこのこと」 と評するくらいの戦国期(中国の“南北朝時代”)。 まあ、中国の歴史は古代より“乱世でない時代”はほぼ皆無と いってよいと思いますし、田中氏が描いた他の中国もの『風よ、万里を翔けよ』 『長江落日賦』などをみても、とにかく人血の嵐がすさまじい!印象を受けますが、 この本を読んでも、然りです。とくに北斉・歴代君主の「粛清」と「惰弱」ぶりは にはあきれてしまうほど(君主とはお世辞にもいえないほど、野蛮ですなあ・・・)。 蘭陵王も、そんな皇帝に振り回され、国の内憂外患の餌食になった、まさに悲運の人 ではないでしょうか。 蘭陵王が大活躍する猛々しい戦闘シーンや、権力中枢で巻き起こる 壮絶な出来事のなかに、快活なヒロイン“月琴”との ささやかなロマンスがなんとも素敵で、思わずのめりこみ読んでしまいました。 さりげないラブストーリーが、蘭陵王の悲劇を一層深くみせている気も・・・。 まさに“蘭の花”のように華麗なヒーロー像を際立たせる「仕掛け」を巧みに 織り交ぜながら、中国南北朝期の荒々しい歴史の一幕を伝えてくれる良書だと思います。
6 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
敵から見れば鬼、その仮面の下には美しき顔,
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レビュー対象商品: 蘭陵王 (単行本)
隋建国の少し前、新三国時代の一角、北斉の皇族である高長恭(蘭陵王)の悲運の一生を、徐月琴という道姑を見聞者として、北斉の勃興から滅亡までと絡めて描いた作品。顔が美し過ぎて威厳を欠くので仮面をつけて戦った蘭陵王という若者が実在し、その知武によって国の運命が左右されたとまで言われた時代があったことは、素直に驚く。現代戦争の勝敗が兵器の優劣によって決定的に定まるのと同じように、当時は将の知と兵の勇によって勝敗が決していたのだろう。ただ自分を鍛えあげ、その力を目の前の敵にぶつける。そういった、現代には少ない一種の単純明快さが、人の心の奥底にある本質的なものをくすぐり、長く惹きつけて離さないのだと思う。 しかし、現代と変わらないこともある。自らの権勢を求めて国の行く末も考えず、ただ足の引っ張り合いをする者たちがいる。疑心暗鬼に駆られ讒訴し、無実のものを死に追いやるものがいる。このような事例を見るにつけ、歴史は繰り返す、という言葉を苦い思いと共に引用せざるを得ない。 蘭陵王は悲運の主人公であり、それは同情に値するものかも知れないが、良くも悪くも王でしかないとも感じた。皇帝が率先して政治を放棄し佞臣をはびこらせ、おそらくは民が苦しんでいる間も、自分たちが殺されないように息をひそめているだけだった。それは仕方のないことなのかも知れないが、正史には現れない、庶民たちの生活がどんな様子だったのかも知りたかった。 なお、この作品では徐月琴という元気な少女を蘭陵王の側においているが、これは悲運の物語を少しでも明るくする上で、とても役立っていると思う。
2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 4.0
正史に依拠して現代人も楽しめる小説,
By 林田力 (hayariki.net) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 蘭陵王 (単行本)
本書(田中芳樹『蘭陵王』文藝春秋、2009年9月30日発行)は中国の南北朝時代を舞台にした歴史小説である。著者はスペースオペラ『銀河英雄伝説』やライトノベル『創竜伝』で有名であるが、中国史にも造詣が深く、著作には中国の歴史小説も多い。日本人の中国史への関心は非常に偏っている。三国志への関心が圧倒的に高く、残りが春秋・戦国時代で占められると言っても過言ではない。他は遣隋使・遣唐使や元寇、日中戦争のように日本史との関係で語られる。中国の悠久の歴史を踏まえると、この状況は非常にもったいない。 これは著者の問題意識でもあり、伝説的な女性武将・花木蘭(ディズニー映画「ムーラン」のモデル)を題材にした『風よ、万里を翔けよ』、中国最大の英雄・岳飛を描いた古典「説岳全伝」の編訳『岳飛伝』などを発表している。本書の主人公・蘭陵王(高長恭)も日本では雅楽・蘭陵王(陵王、蘭陵王入陣曲)以外には知られていない悲劇の武将である。 その蘭陵王の半生を軸に隋の統一へと向かう南北朝時代末期の動乱を描く。本書の特徴は正史に依拠している点である。正史とは国家が正式に編纂した王朝の歴史書である。編纂当時の王朝の正当性を示すために、前の王朝の君主が必要以上に悪く書かれることもあるとされる。 本書でも引用した正史により、蘭陵王が仕えた北斉の君主の暴虐や佞臣の専横がウンザリするくらいに書かれている。史料批判の立場からは北斉を貶めるための記述と割り引いて考えるべきとなるが、その記述には編纂時の王朝を賛美する目的よりも、権力そのものの醜悪さへの反感が感じられてならない。中国の史書には諫言によって理不尽にも罰せられた司馬遷(『史記』編纂者)に象徴される反骨精神の伝統がある。それ故にこそ多くの作品で権力に批判的な記述を繰り返している著者が正史を積極的に引用していると考える。 本書では正史に依拠することで、日本で使われている故事成語の誤解も指摘する。たとえば大本営発表で使われた「玉砕」という言葉は「死んでも節操を守る」という意味であって、「敗北」や「全滅」の意味は全くない(84ページ)。日本人の歴史歪曲や歴史美化は世界から批判されているが、中国人の歴史への真剣さに学ぶべきである。 本書は正史に依拠した「固め」の歴史小説である一方で、道姑(女道士)・徐月琴という架空のヒロインを登場させることで「軽さ」も出している。徐月琴は山中で修行していた設定であるため、社会の動きを知らない。そこで徐月琴を都に呼び寄せた父親の徐之才が北朝の歴史を説明する。これは南北朝時代の歴史に疎い読者に対する説明にもなっている。 有能な皇族や臣下が暴君の嫉妬や奸臣の讒言によって次々と虐殺される暗澹たる状況の中で、明朗でユーモア精神に富み、辛辣な皮肉も口にする徐月琴の存在は物語を華やいだものにする。蘭陵王は知勇兼備の武将であり、外敵には果敢に戦った。しかし、国内の政治の乱れには無力であり、改善しようともしなかった。そのために蘭陵王のみの視点では、やりきれなさが残る。徐月琴が言いたいことを言うことで、現代人も楽しめる小説に仕上がった。
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