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作品としては、愛子の手になる「故郷」という一文から始めて、蘆花の「思出の記」1の巻がおさめられ、故郷菊池の美しい姿が目に浮かぶようである。さらに二人の共著とされた世界紀行文「日本から日本へ」から、愛子の文章とその時どきに読まれた短歌が抄録されている。その短歌は、なかなかのものも散見されるが、与謝野晶子に指導を受けたことがあるとのこと。抄録部分を結ぶ「地」の文は本書の編集者(と思われる)が要約しているが、これがまた良くできていて、この章を読んだだけで「日本から日本へ」の梗概は理解できる。その他、愛子による文章も興味深い。
「思出の記」冒頭の農村風景の美しさ、なつかしさは、唱歌の「故郷」に匹敵するといえそうだが、これは愛子が何度も何度も蘆花に話して聞かせた菊池のイメージに違いない。
蘆花の「自己チュウ」は有名であるが、それに対する愛子もけっこう強くて負けていない。この時代に熊本から上京し女子高等師範を出て、ベストセラー作家で「文豪」と呼ばれた蘆花と生活をともにするわけであるから、それ相応の個性を持たなくてはやっていけないだろうと想像される。毎日のようにけんかしていたというが、その反面、仲が良く互いに補い合っていたようなところが上記紀行文などからも読みとれる。夫婦とは面白いものである。
巻末の年譜も役立つが、愛子の没年まで編んであれば完璧。