画家・藤田嗣治が本の挿絵や装丁、今で言うイラストの仕事に沢山関わっていた事例を豊富なカラー写真で提示していました。特徴のある線やモデルの捉え方などまさしく彼独特の個性が感じられる作品群でしょう。
フランスに帰って行った後の1959年頃に自分が関わった書籍を買い戻したようで、それら90点が奥さんの遺品の中に含まれていたから目にすることができるのです。
線描画や版画、色彩を施したものまで様々な挿絵が掲載してあり、200点ほど収めてもらうとそれだけで立派な「画集」となります。本文の詳しい説明を読んだ後、その作品群だけ通して眺めて見るとまた違った趣が伝わってきました。
52ページには当時の妻とみに宛てた手紙(1914年3月11日)が掲載してあり、彩色された図版入りの手紙は珍しく貴重でしょう。
日本の芸者や相撲の土俵入り、歌舞伎の隈どりなどを描いたものも収めてあります。日本へ帰ってからの挿絵や表紙は時代を反映した暗さと陰りが感じられました。
また有名人と一緒に撮った写真、林芙美子肖像、表紙見返しに描かれた女性像(220ページ)など、藤田好きには堪えられない編集企画だと高く評価します。
筆者の林洋子氏(京都造形芸術大学准教授)が、藤田嗣治で博士論文を書いた筆者の造詣の深さが感じられる書籍でした。
本書の内容です。
序曲―藤田の装幀観と、ある奇書
第1幕 美しい本―愛書都市パリ、挿絵本との出会い
第2幕 記憶のなかの日本―一九二〇年代パリの寵児
幕間 洋行のエクゾティスム―一九三〇年代初頭の中南米の記憶
第3幕 記憶のなかのフランス―一九三〇年代日本のニーズ
第4幕 洋行文士と藤田―戦時下の日本での協働、そして
終曲―本という小さな展示空間で